大嶺政寛（おおみね・せいかん、1910年那覇市生まれ～1987年没）は、沖縄を代表する風景画家で、赤瓦屋根の民家を象徴的に描く作風で知られる。那覇尋常小学校から沖縄県立第二中学校（現・那覇高校）に進学し、美術教師・比嘉景常に師事。沖縄県師範学校卒業後は教師として働く傍ら、戦前より文展・春陽展に作品を発表した。太平洋戦争中には、教え子や同僚を戦争で失う悲劇を経験し、終戦後は画業に専念。壺屋焼や紅型の復興、沖展の開催など文化復興にも尽力し、沖縄美術界の重鎮として活躍した。1951年には国民指導員として渡米し、美術館巡りを通じて刺激を受けた。1962年の八重山訪問を契機に画風が深化し、赤瓦のある風景を主題に、写実と創作の狭間で心象風景として構成された作品を多く残した。風景の正確な再現よりも、生活感と空間美、造形的構成を重視し、同じ場所を描いた作品であっても一点一点異なる構成を持つ点に特徴がある。

沖縄を代表する風景画家・大嶺政寛（1910-1987）による《平良医院（首里）》は、首里のかつての街並みに息づいていた静かな生活の一場面を、温かな眼差しで切り取った作品です。赤瓦屋根と琉球石灰岩の石垣が印象的な伝統的な門構えは、沖縄特有の風土と歴史を色濃く映し出し、穏やかな陽光に包まれながら、かつて人々が行き交った日常の気配を今に伝えています。

本作に描かれた「平良医院」の文字は、戦前の首里に実在した医院の存在を示しており、単なる風景描写を超えた、地域の記憶への深い敬意が込められています。大嶺は写実と創作の狭間に立ち、風景の正確な再現にとどまることなく、空間の美しさと生活のぬくもりを巧みに調和させ、観る者に郷愁と安らぎを呼び起こします。柔らかなタッチで描かれた石垣の質感、赤瓦の温もり、門をくぐった先に広がる奥行きのある景色。どれもが、沖縄の失われた原風景への深い愛情に貫かれています。その中に広がる空気感と時間の流れは雄大であり、観る者にかけがえのない記憶の旅を誘う一枚です。