アルベール・カミュの『ギロチン』は、彼の死刑廃止論をまとめた論考で、正式なタイトルは『ギロチン台』(Réflexions sur la Guillotine)といいます。1957年に発表されたこのエッセイは、カミュの思想を理解する上で重要な作品の一つ。 死刑は本質的に不正義である カミュは、死刑は「人間が人間を殺す」という行為であり、それは決して正当化できないと主張しました。たとえ国家が行うものであっても、本質的に殺人であると考え、 刑罰としての正当性を否定しました。 死刑の抑止力への疑問 当時、死刑制度の存続を支持する論拠として、「犯罪の抑止力がある」という考え方がありました。しかしカミュは、死刑が実際に犯罪を減少させるという明確な証拠はないと指摘し、むしろ死刑の存在が社会に新たな暴力を生み出す可能性を論じました。 非公開性への批判 カミュは、死刑が密室で執行されることを強く批判しました。もし死刑が社会に対する「見せしめ」や「教訓」として機能するのであれば、なぜ公開で行われないのか、という疑問を投げかけ、秘密裏に行われることの不気味さと不条理さを指摘しました。この点で、彼の父が実際にギロチン台で処刑された男を目撃した際の、その恐怖と無意味さに対する体験談が、彼の思想の原点として語られています。 「不条理」と「反抗」の思想との関連 カミュの思想の中心には、「不条理」と「反抗」という概念があります。 不条理: 人生に意味や理性を求める人間と、その問いに答えない無意味な世界との対立。 反抗: この不条理を認識し、絶望することなく、人間の尊厳をかけて立ち向かう姿勢。 カミュにとって、死刑制度はまさにこの不条理を象徴するものでした。人間が人間を殺すという理不尽な行為に対し、反抗することこそが、人間の連帯と尊厳を保つ唯一の道だと考えました。 『ギロチン』は、単なる死刑廃止論にとどまらず、人間の尊厳、正義、そして暴力の本質について深く考察した、カミュのヒューマニズムを代表する重要な論考です。 - 著者: アルベール・カミュ - 翻訳者: - タイトル: ギロチン - 出版年: 1974年 - 出版社: 紀伊國屋書店 附属 死刑論 J . ブロック ミシェル