王国の復刻版は写真そのものの力ももちろんなのですが、本としての装丁、サイズ感、モノクロ印刷のインクののり方、ページ内での写真配置のプロポーションなど、戦後のブックデザインとしても、大変力の入ったすばらしいものです。なのでお値下げはご容赦いただきたいです。
戦後日本写真史を語る上でも名高い巨匠・奈良原一高の「王国」とは?
1958年9月に、銀座・富士フォトサロンにて発表された奈良原一高写真展「王国」。
2回目の個展であったこの「王国」展の意図を、奈良原は後に以下のように語っています。
異なった2つの「場」に生きる人間の姿を同時に見つめることは、そこに浮かんで来る現代の状況と心層の響きに耳を傾けることでもあった。
~中略~
自らの必然によって求めた祈りの生活と法律によって強制隔離された生活、その動機は異なっていても、共に閉ざされた壁の中の世界…、
そのような壁は日常の心の中にもとらえがたい疎外の感覚となって介在していて、当時の僕はそのような自分の内部にある不安と空しさをこの『王国』の場をみつめることによって超えようとしていた。事実は観念をとびこえる肉体をもっている。
その奈良原の「王国」が再び注目されるきっかけとなったのは、2014~15年に東京国立近代美術館で行われた「王国」展でしょう。2つの極限世界で生きる人々をとらえた数々の写真を前に、訪れた多くの人が息をのみ、作品の放つ世界観に圧倒されました。こちらの展覧会でも掲載された一連の写真だけではなく、これまで作品集には収録されることがなかった未発表作品をも多数含んだ新装版としてまとめるのが、このたびの『王国 Domains』です。