汚れし者の伝説
主演・藤岡弘
元資生堂キャンペーンガール、横須賀昌美。日本映画初の23分間衝撃のレイプシーンノーカット公開!!
男と男のドラマがまたはじまった・・・
現役の殺し屋と引退した殺し屋の男の熱い友情が女の復讐に炎と燃えた!!
愛する者のために・・・あなたは人を殺せますか。
The KILLERS
汚れし者の伝説
●監督 深沢正樹 ●監修 長谷部安春
TOKYO MANIAX video 発売●㈱日本映画新 nippon eiga atarashi co.,ltd
付録 ヘアヌードシーン
とまあ、いろいろと書かれているセール専用・レンタル禁止のVシネマ草創期の1本である。70分作品で税込16,583円。無論、そんな値段では買っていない。
藤岡弘といえば、最近の人には「セガサターンしろ!!」の変なおじさんというイメージであろうか。セガタ三四郎はブレイクしたが、当のセガサターンはついに絶滅してしまった。CMのキャラクターと実際の販売展開がかみ合わなかった好例と言える。果たしてドリームキャストの運命やいかに。
言うまでもなく藤岡弘生涯第一のブレイク期は、仮面ライダー1号、本郷猛時代だった。それ以前にも『宇宙大怪獣ギララ』の月面基地で、なよなよと腰の定まらない隊員役として、ご幼少のみぎりの皇太子殿下にも目撃されてはいるはずなのだが。以後は東宝の超大作シリーズ『日本沈没』『東京湾炎上』『エスパイ』に続々と主演。私は未見だが『野獣死すべし 復讐のメカニック』『大空のサムライ』と主演作を重ね、TV『特捜最前線』では特命課ナンバー2・桜井刑事。この辺がまさしく花の時代ではなかろうか?
以後、「セガタ三四郎」に到るまでにも、藤岡弘は芸能界のどこかには存在していたはずで、断片的にその記憶をたどってみると、まずはコカコーラ・ボトリングの栄養ドリンク「リアル・ゴールド」のCM。肉体的にはピークを過ぎていたはずの藤岡弘がヘリから海面に飛び込む「ファイト一発」テイストのフィルムだ。「栄養は、ええよぉ~」とは言わなかったが、ここで彼についた贈り名は「役者バカ」だった。NHKの大河ドラマでは、橋田寿賀子ファミリー総出演の『おんな太閤記』に、何故か信長役でレギュラー出演。西田敏行演ずる木下藤吉郎に、あの野太い声で「さるっ!!」と怒鳴りつけている姿はまさしく藤岡弘だったが、他に適当な役者はいなかったのか? とはいえ橋田ファミリーを見渡しても、角野卓造とか藤岡琢也しか思いつかない現状では、信長キャスティングに外様を登用するしかなかったのも無理がなかろうというもの。
その後、活動の本拠をアメリカに移した(1号は今、ショッカーアメリカ支部と戦っているんだ)と噂された80年代、突然逆輸入されて戻ってきたのが『SFソードキル』。氷漬けのチョンマゲが、現代アメリカでチンされて珍騒動を巻き起こす代物であるらしいが、私は見たことがない。米国で剣劇ショーなどをやっていたらしい藤岡弘は、北海道・奥尻島の津波禍に際しては救援物資を携えていち早く現地入りするという正義の味方らしさを見せた。円谷プロがオーストラリアで撮影した『ウルトラマングレート』の日本語吹替版ではナレーターに抜擢。「たたかえ、うるとらまんぐれーとぉー」と、相変わらず野太い命令口調で熱く語っていたものである。
話は前後するが、『ウルトラマン』のハヤタ隊員(黒部進)が、TVヒーロー界最大のオポジット(敵対勢力)仮面ライダーの新作『仮面ライダーBLACK』の第1話に、敵軍団ゴルゴムの幹部役で出演して我々をビビラセてしばらく後、東映と円谷プロが本格提携して作られたビデオ『ウルトラマンVS仮面ライダー』の新作フィルムでは、バンクフィルムの合成ながらハヤタと本郷のツーショット出演が実現、但しこの頃、藤岡弘自身は仮面ライダーについて、あまり語りたがらなかったと言われる。多くのスタッフが犠牲になっているのに、自分一人だけがヒーロー扱いされるのは不本意だと。
『汚れし者の伝説』も、そうした「元ライダー」から脱却しようと藤岡弘が迷走していた時代の作品である。共演は宍戸錠。初期のVシネマであれば、もう少し派手に話題になっていても良さそうな布陣なのだが、聞いたこともないメーカー名と共に、怪しさのにじみ出る製品である。長谷部安春がどの程度タッチした作品なのか。
付録のヘアヌードシーンというのは、この同じメーカーが出していたらしい「横須賀昌美のヘアヌードビデオ」の予告編である。23分間のレイプシーンを売りにしている本作であるが、本編で横須賀昌美はヘアはおろか胸さえ出さない。
藤岡弘の職業は殺し屋である。冒頭、夜の新横浜駅を通過中のひかり号を、駅前ビルの屋上からライフルが狙う。サイレンサーが鈍い音を立てる・・・そう、藤岡弘は、サイレンサーをつけたライフルで、数百メートル離れた場所から、ある程度減速しているとはいえ走行中の新幹線の車内にいる人物を狙撃したのだ。『エスパイ』のファーストシーンで、逆エスパイの内田勝正がやってのけた芸当と全く同じ。そうか、「超能力は愛の力だ」と力説していた藤岡弘も、ここまでグレてしまっていたのか。
翌朝、まだ雪の残る山中を走る藤岡弘のジープ。行き先は閉店中のホテル。雪の深い時期には営業を休んでいる小さなホテルの管理人、それがかつての殺し屋仲間、宍戸錠だったのである。コーヒーで乾杯し、「スクランブル・エッグ・ウィズ・ソイ・ソース(炒り卵醤油掛け)」で藤岡弘を歓待する宍戸錠。
5年前、東京でダイニング・バーを妹(横須賀昌美)と経営する傍ら、藤岡弘と組んで殺し屋をやっていた宍戸錠だったが、ある日突然引退を言い出した。自分は山のホテルの管理人の口があったのでそこで働き、藤岡弘にも足を洗ってこの店を引き継ぐように進めるのだった。藤岡弘は今の仕事を続けると言い、宍戸錠一人が引退して東京を離れることになった。宍戸錠にとって最後の仕事になるはずだった暗殺、藤岡弘はペンダントに秘めた横須賀昌美の写真を、じっと見つめていた・・・。
・・・それにしても、むちゃくちゃ年の離れた妹やな。
そんな回想を遮ったのが、一発の銃声だった。藤岡弘は尾行されていたのか。だが、3人組の一人に口を割らせると、意外なことに狙われていたのは藤岡ではなく宍戸錠の方だったのだ。依頼人の名は「吉村」。吉村とは誰か。
その頃、東京の横須賀昌美の店に、ヤクザ風の二人の男がやってきた。あの「ペンダント」を見せつけ、これの持ち主の居所が知りたいと言う。知らないと言い張る昌美に、スキンヘッドの異常性欲者がのしかかる。さあ、合計23分間のレイプシーンの始まりだ。
尻しか見せないレイプシーンなので、退屈きわまりなかったのだが、男の方のキャラクターで何とか見せている。10分ほど過ぎたところで、突然ドアが開き、角刈り・サングラス・コートの男が逆光で登場、味方か? と思いきや、これがまたレイプの助っ人。バッとコートを脱ぎ捨てると、その下にはシェイプアップされた筋肉のカタマリ。言葉がしゃべれないという設定で、はあはあ息を荒らげながら襲い来るカルトなキャラクターを演ずるのは、なんと、筋肉漫談のブルータス。レイプっつーより、メキシコのルチャ映画を見ているようで、なんだか興奮してきたよ、おにーさんは。
業を煮やしたヤクザさんたちは、横須賀昌美を犯しつつホテルの兄貴に電話させるという意味不明の行動に走り、宍戸錠は車を飛ばすが、キレた横須賀が相手のナイフを奪って大立ち回りを演じつつ、返り討ちにあって絶命するという急展開なのであった。
さて、山のホテルでは、「吉村」が放った殺し屋軍団が襲撃する。敵の陽動作戦によって、藤岡弘と宍戸錠は分断、その間に傷を負った宍戸が狙われる。実は「吉村」というのは、10年前に宍戸にある殺しを依頼した人物だった。その「吉村」が政界に進出するにあたり、ダーティな過去を知る者を抹殺しようとしていたのが、今回の事件の真相だったのだ。
いや、そのオチが意外なのは認めるが、それでは藤岡弘は単に巻き込まれただけで、本質的には無関係だよなぁ。だとすれば、23/70分も使ったレイプシーン(あっちでヤクザが探していたのは藤岡弘)というのは、もしかすると本題とは何の関係もなかったのか?
かくて宍戸錠は蜂の巣にされて殺され、藤岡弘は殺し屋軍団を一層した後、友の復讐のために、「吉村」に狙いを定めるのだった。
長門裕之・丹波哲郎と共に、同じ日活系の宍戸錠も基本的には仕事を選ばない人間だ。本作への出演も、日活時代の戦友・長谷部安春のラインからの決断だと想像される。実際、銃撃戦やレイプシーンなどに、長谷部演出らしいケレン味が散見されるのも事実だ。しかし、まとまらないストーリーや回想シーンとの切り返しなどに、全く丁寧さを欠く本作。もしかすると『スナッフ』や『死亡遊戯』みたいに、何だかの理由で放棄されたフィルムを、別人が編集したのではないかとも思われる。
藤岡弘の抑えた演技は、確かに元仮面ライダーを脱却していた。だが、世の中が藤岡弘を必要とするまでには、もう少し時間が必要だったのである。