フォークナー全集 全24巻 冨山房
フォークナー(1897-1962)米国ミシシッピー州生れ。曾祖父は鉄道建設者・政治家・作家として知られた人物。第1次大戦で英国空軍に参加し、除隊後ミシシッピー大学に入学するが退学、職業を転々とする。地方紙への寄稿から小説を書きはじめ、『響きと怒り』(1929)、『サンクチュアリ』(1931)、『八月の光』(1932)などの問題作を発表。米国を代表する作家の一人となる。1950年にノーベル文学賞を受賞した。
フォークナーの最初の長編『兵士の報酬』(1926年)は、第一次大戦で記憶力を失った青年の物語という失われた世代らしい主題の作品、また第2作『蚊』(1927年)はバックスレ―風の風刺的な小説だが、フォークナーが独自の作品世界を生み出し始めるのは第3作『サ―トリス』(1929年)からである。第1作に当たるこの作品は主題自体は第1作に近いが、旧家であるサートリス家の没落を、主人公の曽祖父の因縁の物語として多くの自伝的要素を盛り込みつつ書き起こしており、以後の独自の文学的世界へと踏み出す端緒となった。
続く第4作『響きと怒り』(1929年)で、フォークナーは作品の表現形式を一変させる。この作品では章ごとに別の語り手をおき、ことに冒頭の章に白痴の人物を語り手に置くことによってまず混乱した情景を提示し、それが他の章を読み進めるに連れて次第に物語が明確化していくという構成をとり、またこの作品から「意識の流れ」の手法によって、語り手の現実的な視点に回想や意識下の思考(これらはしばしばイタリック体で書かれている)を挿入することによって語りを重層化させる試みが行なわれている。そしてこれらに加えて、ある作品で主役として登場した人物を他の作品で言及したり、あるいは主要人物として再登場させるといった方法で各作品を結びつけ、作品世界に広がりを持たせている。