1922年生まれの作家、中井英夫。“日本三大奇書”と呼ばれる幻想的かつ怪奇な三冊の本のうちの一冊、『虚無への供物』を書いたことでも有名です。
中井英夫という名儀は本名ですが、そのほか塔晶夫(とう・あきお)や碧川潭(みどりかわ・ふかし)という名前でも活動していました。代表作である『虚無への供物』も刊行当初は塔晶夫名義で発表されていたもので、彼を一躍有名にするまでは長い時間を必要としました。
小説家としての顔以外に角川書店の編集者としても活躍しており、歌人の寺山修司や春日井健の才能を見出したのも彼です。また、幻想耽美小説を代表する作家である澁澤龍彦とも交流が深かったそうで、独自の世界観を持つ作家たちの中枢となる存在だったことがわかります。
自身の持つ性癖やコンプレックスなどが糸を引いていたようで、美少年でありながら自身の顔を激しく否定する発言などが記録に残っています。
薔薇、人形、同性愛、偏愛などのテーマを扱いながら冷静な文体を持つ中井英夫の小説。その魅力は、彼の独自の美意識と、類まれなる文才から生まれ出たものなのでしょう。